広島高等裁判所 昭和36年(う)241号 判決
判決理由〔抄録〕
(一) 本件事故発生当時の状況は原判決認定のごとく被害者展子らは道路左側から右に展子の伯父日野平清一、同人の娘(当時六歳)及び右展子の順にほぼ横に一列に手をつなぎ、右展子ら三名の前方約四米の道路左側を左から右に清一の弟、妹、妻及び母(展子の祖母)の順にほぼ横にならんで同一方向に歩いており、展子の歩いていた位置は道路左端から約二・九米中央寄りの個所であったこと、被告人は小型四輪貨物自動車(山四す三一八五号)を運転し岩国方面から時速約四〇粁の速度で本件現場附近にある江先石材店の東方約三〇米にさしかかった際、右展子らが被告人の前方約三〇米の地点を前記状況の下に同一方向に向って歩いているのを認め、同時に右展子らの前方三〇米の道路右側を一台の貨物自動車が反対方向から進行して来るのを認め速度を時速二五粁に減じたこと、被告人運転の車が右展子らの側方を通過する地点において右貨物自動車と離合する状況にあったこと、現場附近の道路の見透は良く当時晴天であったことを認めることができる。
かかる場合前記の歩行者の一群の後方より進行する自動車運転者としては、前方の一群の歩行者の中から後方の自動車に対する注意能力が最も欠けている前記展子らの幼児達が(同伴の成人の監視があったとしても)自動車の進行に気づかずして突然その進路上にとび出して来るということは幼児の習性上稀有のことではないのであるから当然想到すべき事柄であり且又容易に予見しうるところである。ことに同人らの前方より対向して来た貨物自動車が通過し去った後においては、安心感からその進路にとび出して来る危険性が特に強いということは予見しうるところである。
(二) 原審検証調書によると、本件現場附近の道路幅員は約一二米で展子は右道路の南(左)端から中央寄り約二・九米の個所を歩行中であったのであるから、被告人運転の自動車と展子とがいずれもそのままの方向を進行したとしてもその間隔は道路幅員の半分である六米から右二・九米と自動車の車体の幅約一・五米(自動車検査証)を差引いた約一米強しかなかったことが明かである、しかも前述のごとく当時反対方向から進行して来ていた貨物自動車とは展子らの側方通過の直前に離合する状況にあったほか展子らが被告人の進路にとび出して来ることも予見される状況にあったのであるから、同女らの僅か一米強の個所を時速二五粁の速度のまま警音器をも吹鳴することなく通過しようとするにおいては、右展子が進路に出て来た場合これと接触する可能性が充分にあるといわなければならない。
(三) 従って自動車運転者としてはかかる場合警音器を吹鳴して歩行者に注意を促しこれを道路左端に避譲させるか少くとも自己の進路前方に移動しないような措置を講じた上歩行者と充分の間隔を保ってその側を進行するか、更に一層徐行し機に応じて急停車しうる様準備をしつつ通行するのがこの場合における業務上当然の義務であるというべきである。